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さて、外に出たところで、これと言って行くあてもありませんでした。
どこの家でもそろっと晩飯時という時分でしたから、そぞろ歩きをしていますと、あったかな夕餉の匂いと子を呼ばうおっかさんの声、それに遊び足りない坊主たちの影法師が、ちらちらと重なって。 -
ぼくはてっきりパパとママの一人息子なんだって勝手に思っていたから、「ただいまー」と言って、ぼくよりうんと背の高い、日に焼けた、黒いキャップをかぶった男のひとが手慣れたようすで家に入ってきたときは仰天した。
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「一度、負けちまった方がいいんだよ、国も人も。」
歳三はふと、ある人物が言った言葉を思い出した。
「そうか、勝さんが言っていたのは、このことだったのか?」 -
てんてん手鞠、良い手鞠…………。
子供の遊び歌ってものは、いつだって心をなごましてくれるもんです。私は殊に、この手鞠歌が好きでした。 -
11月22日、箱館から回天丸と神速丸が開陽丸救出の為に江差に到着したんだが、また風が強くなってきたために、この2隻は波に翻弄され始めた。
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その日、正義は珍しく朝から事務所の手伝いに借りだされていた。出がけに〈雑司ケ谷スイーツ〉の店先を見ると、平日なのにシャッターがしまったままで「本日臨時休業」の張り紙がしてあった。家のなかでも見かけなかったから、花梨はどこかに出かけているのだろう。
彼の父親、不動征四郎(せいしろう)が経営する弁護士事務所は、都電荒川線の踏切を渡った向こう側にある。正義が自宅から歩いて事務所まで来ると、一台のバンが建物の前に停まっていた。 -
色褪せたパンツは、長年の酷使で股間の辺りが蜘蛛の巣状に擦り切れていた。歳月が凝縮された、まるで侘び寂びの風格さえ漂わせるパンツに、横山は戦友のような想いを抱き、
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広げた皺だらけの喪服には、大小含めた夥しい数の虫食いの跡が穿うがたれていた。正面、袖、襟、ポケットの周辺、背中と、まんべんなくものの見事に食い散らかされている。
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十月中旬に訪れたときにはまだ秋も浅く、紅葉の一つも見つけられなかったのに、それから一ヶ月経つと、〈小石川植物園〉の園内全体が一足飛びに秋を越えて冬になっていた。
木々がすっかり葉を落としているのでやたらと見通しがいい。正門から入って本館に向かう坂道を上がってきた正義は、枯れたソメイヨシノの林を透かして、すぐに浜崎喜一の姿を見つけることができた。 -
八月も半ばを過ぎたというのに真夏日は、まるでいやがらせのように延々と続いていた。細い路地の入り組んだこの窮屈な住宅密集地にも、傾いた太陽がじりじりと照りつけている。
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「正直、海は苦手だ……」
歳三は、船室の片隅で一人呟いた。
その独り言を聞いて、「ふっ」と、自笑もした。
〝俺が弱気になってやがる。この俺が〟
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