【第06回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第06回】

2017.01.11 | 柏原弘幸

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怨念に憑依されたような面持ちでそう言うと、ぜいぜいと肩を上下させるのだった。
目の前のコガネムシは、半ば狂人ではないかという疑念が突如渦巻き、横山の恐怖心を呼び起こした。
「わかった、わかった。君が女を恨んでいるのはよく分ったがなぜ、真夜中の般若心経なんだ?」
横山が少しやさしい口調で訊くと、矢野部はすぐにもとの柔和な表情に戻り、
「そこで私、考えましたよ。宗教家になろうって。偉大な宗教家になって人々を見返し、歴史に名を残す・・・・・・人生大逆転ってやつです。この私の人生が負けっぱなしなんて、そんなのあり得ない! そのための第一歩として、霊力を身につけるべく、こうして真夜中に修行をしているわけで」
そう言って、どこからどう見ても温和な常識人の表情でニンマリとするのだった。
「人々を見返すんじゃなくて、救済するのが宗教家だろう」
横山は呆れたように言った。
「甘いですね」
今度は矢野部が呆れたように顔をしかめた。
「甘い?」
「そんなきれいごとを言ってるようじゃ、この汚濁にまみれた世の中を渡っていけませんよ」
「それを言われると辛いが、宗教家を目指す若者がこんなんでいいのかな」
「いいのです! 世の中なんて騙し合いで成立しているようなもんじゃないですか。カメレオンの餌食になる虫の気持ちになってもらえればご理解いただけると思いますが」
「ん?」
矢野部は続けた。

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