【第04回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第04回】

2016.12.26 | 柏原弘幸

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その日は、東京湾から延びる運河にほど近い派遣先の物流センターで、残業もなく午後五時に仕事を終えた。給料が出たばかりで、同僚の三十代の女性二人にねだられて、カラオケに行った。ふたりとも、バツイチ独身の子持ちだった。
ひとりは元銀座のホステス、ひとりは元高校の英語教師という経歴だった。メイクの下からわけありの過去が滲んで、貌の表面に浮き出ているような女たちだった。だが、それはそれで見ようによっては魅力的で、やさぐれた色香を漂わせていると言えなくもなかった。苦労話をさせれば何時間でも喋りそうだった。職場には男女を問わず横山と同様に、どこかで人生を踏み外した人間たちが大勢いた。
元英語教師はカラオケの途中で酔いつぶれ、淫らに身を崩した格好でスラングを喚いたりしていた。スカートがずり上がり、太腿をかなり際どいところまで露わにしていた。酒に弱い横山はひどく赤らんだ顔で、女の胸の膨らみに顔を押し付けたりしていた。元銀座のホステスは、横山の膝を枕にして寝込んでしまっていた。
そんな中でマイクを握り、アルコールに眼を潤ませ、時代遅れの歌謡曲をがなると、格別の虚しさが押し寄せて来て、ささやかな酒池肉林も横山の心を満たすことはなかった。

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