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【第7回】冬の植物園

2016.12.09 | 川口世文

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7 冬の植物園

 

十月中旬に訪れたときにはまだ秋も浅く、紅葉の一つも見つけられなかったのに、それから一ヶ月経つと、〈小石川植物園〉の園内全体が一足飛びに秋を越えて冬になっていた。
木々がすっかり葉を落としているのでやたらと見通しがいい。正門から入って本館に向かう坂道を上がってきた正義は、枯れたソメイヨシノの林を透かして、すぐに浜崎喜一の姿を見つけることができた。
いつか正義が一ノ瀬舞衣といっしょに来たときに休憩をした、〈薬園保存園〉の前にあるベンチに一人ポツンと腰をかけている。
土曜の午前中、今週も舞衣の実父はここに来ているのではないかと正義は思いついた。習慣はそう簡単に変えられるものじゃない。舞衣は結婚式の準備で忙しくて、当分ここには来ないかもしれないが、だからといって浜崎自身も来なくなるとは限らない。
錦糸町駅前の〈東京楽天地〉で映画を観たり、図書館で新聞を読んだり、近所を散歩したりするようなことは、浜崎のイメージからは遠かった。

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