【1】
ほんの少しの勇気だ。思いっ切り息を吸って、肺が一杯になったと思ったら、息を一気に吐きながら飛び込むのだ。
そうすれば、あたしは幸せになれる。幸せは掴み取るものだ。何も迷うことはない。今までだって、何度もこうして捨て身の手段で絶体絶命のピンチをチャンスにしてきた。
思えばあたしは裕福な家に生まれた以外は、本当にツイていない星の下に生まれた。裏口に限りなく近い方法で有名なエスカレーターの女子中に入れてもらったのに、必死に勉強しても成績はいつも下から数えた方が早かったし、友達もたった一人しかいなかった。
そういえば、あたしは何であの子と友達になったのかしら?
美人で勉強が出来て、スポーツも万能で、性格も良い、嫌みなほど完璧な女…… でも、あの子のお陰で良い思い出もあるから恨みっこはなしだ。
今のあたしには、一人息子の幸せが全て。それ以外は何も望まない。あたしの思うようには育たなかったのは少しだけ悔いが残るし、父親にそっくりになっていくのは仕方のないことだ。たぶん、それもあたしが掴み取った幸せの形なのだろう。
余計なことを考えるのは止めよう。集中して、一気に事を終わらせるのだ。失敗は許されない。チャンスは1回だけだ。
あたしは幸せに向かってジャンプする為に息を吸い込んだ……