【第05回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第05回】

2017.01.05 | 柏原弘幸

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「何もないところですが」座りながら、男が言った。
「見りゃあ、わかるよ」
ほんとうに何もなかった。空き部屋同然の、からっぽの四畳半だった。
「この広い東京のこんな所で、こんな時間に出会うなんて、これも何かのご縁ですね。前世で兄弟だったりして」
コガネムシは外見に似合わず、自信満々で堂々としていた。横山はくだらない事を悦に入って滔々と喋るタイプの人間が嫌いだった。コガネムシを捻りつぶしたい衝動に駆られた。
「私、矢野部と申します。二十五歳です。京都大学を卒業してます」
男はそう言うと、満面の笑みをさらにグレードアップして横山を見た。
「聞いてねえよ、出身大学なんか。何、その笑顔? すんごいですね~、とか言って欲しいのか?」
「いやいや、滅相もない。大学卒業後は大手都市銀行に就職しました。まあ、世間的な価値観から言えば、典型的なエリートコースを歩んできたと申しますか・・・・・・」
「分った、分った。それで?」
「セクハラで懲戒解雇になりました。女性社員を、舐めるように見る悪癖がありまして・・・・・・」

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