【第8回】破産管財人
2016.12.21 |
8 破産管財人
その日、正義は珍しく朝から事務所の手伝いに借りだされていた。出がけに〈雑司ケ谷スイーツ〉の店先を見ると、平日なのにシャッターがしまったままで「本日臨時休業」の張り紙がしてあった。家のなかでも見かけなかったから、花梨はどこかに出かけているのだろう。
彼の父親、不動征四郎(せいしろう)が経営する弁護士事務所は、都電荒川線の踏切を渡った向こう側にある。正義が自宅から歩いて事務所まで来ると、一台のバンが建物の前に停まっていた。
「ちょうどよかった、車の後ろのダンボールをなかに運んでくれ」
待っていた征四郎はそういうと、自分はそのまま建物に入ってしまった。数年前に体を壊してから──いや、もっと前から──滅多なことでは力仕事はやらない。