詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

草の立つ山

草の立つ山

【第16回】仕度をしよう

2015.09.26 | なみの亜子

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 山の斜面いっぱいの柿の木が、日に日に重量感を増す。朝晩の冷え込みとともに、しっかりと太り色づいてゆく柿の実。晩秋には収穫を迎える。その頃の山は、木という木に無数の柿色ちょうちんが灯り、ほかほかとしたお祭りのようなあかるさ。実を穫る人らで賑わう山から、柿ぎっしりのコンテナを積んだ軽トラが続々と降りてゆき、また荷台を空にしては登ってくる。JAの選果場へ、あるいは国道沿いにこの時期だけ棚をひらく直売所へ。直売所では笊にコンテナにてんこ盛りの柿が並び、他府県ナンバーの車やバスが停車しては買っていく。柿の山の一番忙しい季節。
 やがて冷たい風が吹き始め、落ちた柿の葉が山の()に積もると、あちらこちらで煙があがる。柿落葉はいつまでも腐らない。焼かなければ分厚く積もって害虫や菌を養う。山の上から下へ、掻いては焼き掻いては焼き。かたわら、渋柿が一本の紐にいくつも吊るされ、やがて家々の軒下に吊るし柿のすだれとなって並ぶ。それから晩冬まで、凍てつく風に乾きつつ干し柿特有の甘みをたくわえる。それがここらの山の冬仕度。仕度がすむと間もなく霜が降り始める。雪雲が山の峰を覆い始める。
 山の獣たちも、柿の実の食べ頃には忙しくなる。高いところの柿は、鳥類が嘴をつっこんで食い散らす。低いところの実や落果はじきに、何者かが皮だけの柿型カップにしてポイ。柿の実の天を裂いたり齧ったりして開け、そこから実だけをきれいに食しまあるく皮を残す。うまいこと食べるもんやなあ。ここらそこらに、柿の種と果汁のまじった糞がとぐろを巻く。大小さまざまだが、どれも柿の種こんもり。断定は難しいけど、実際に私がこのへんで見かける獣から容疑者をリストアップすると、狐、狸、いたち、はくびしん、野ねずみ、あたりか。もちろん増えに増え、もう普通にそのへんにいる鹿も。鹿は実だけでなく、年間を通して樹皮や芽まで食いにくる。山の木の実のとぼしい年には、熊も降りてきて柿を食う。その糞が見つかると急ぎ役場の担当が写真に撮り、発見場所の地図とともに回覧を作って回す。冬眠する獣もしない獣も、食べものがなくなる冬に備える。きびしい凍てと寒さを乗り越えるために食べられるだけ食べ、皮下脂肪に身を守らせる。ここらの山の獣たちの冬仕度。
 わが家といえば、秋の山の紅葉を愛でつつ、行ったり来てもらったりしてなるべく人と会っておく。道が凍結しだすと往来が難しくなる。ストーブや炬燵の準備は抜かりなく。ボイラーまで含めると、とにかく冬は灯油灯油で日が暮れる。これが山道を車で20分走らないと手に入らない。18ℓタンクを数本セルフで給油し積み降ろし。二年前に脊髄を傷めたおっさん(←夫)はこういうことができなくなって、ほとんどすべてが私の肩にかかる。私にしたって更年期まっただ中のポンコツ体。さすがに疲弊しまくっている。この冬を山で越せるんやろか。緊急的に避難を考えよか。冬仕度に別の仕度が加わる。さらに忙しくなってたいへんだけど、仕度の時間は、少し先の未来をあれこれと思い描いて動く時間でもあって。この先。すぐそこのとりあえずの未来。まずそこまでは向かってみる。さあ仕度をしよう。

 

2015.9.26

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