草の立つ山
花みずひき青はつゆくさ好きなものいっぱい言っていく道犬に
犬はまだ海を知らない 小さき橋渡って渡りかえしてあそぶ
予報よりすこし遅れて雨の来ぬ草には詫びるごとくに降りて
降りたたく雨に倒るるは樹に多し小さき草は打たれ強しも
釣り人と登山者に戻らぬがあるという嵐となれば凄める渓ゆ
買い置きのはかなくなれるわが家に野の菜乾物たのみとしいつ
ねぎの根をそのへんに挿しそのへんにねぎを穫りたり小口に刻む
ようようと胸をひろげてとびたてる山のとんびは急ぐことせず
やっぱ鳶は山が似合う、とわが言えば、鳶はどこでもえらそうや、ときた
抱擁のあいだをつなぐ音として激しき雨ののちの濁流
草の名と鳥の名云い合うそのように夜ごとあなたを抱くはずだった
さむざむと欅の若木のたわむときあなたといる世のここに吹く風
そろそろか旅のこころに汽車を待つごときとんびを電柱に見上ぐ
行間にツユクサぽつり原民喜全集閉じれば机上は晩夏
雨霧は終日晴れずしんしんとしんしんと山は峰を研ぎおる
2015.9.12