詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

たか女綺譚

たか女綺譚

【第12回】別の女の話(4)

2015.08.25 | 外山一機

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 『風知草』の巻頭に三田村草干の句を見たときの驚きは、今でもはっきりと覚えております。愚陀愚陀会の句とはまるで違う艶やかさがありました。三田村草干とは何者なのだろうかと思って頁をめくっていると、奥付に三田村多一とあるじゃありませんか。まさかとは思いましたけれど、矢も楯もたまらずお手紙をしたためたのです。けれども、返ってきた手紙は草干の手ではありませんでした。
 …突然のご無礼をお許しください。わたくしは草干の妻でございます。先日あなた様が草干宛にお送りになったお手紙、誠に失礼なこととは存じながら、拝見させていただきました。と申しますのも、先日来草干の身辺が怪しく感じられましたところに女性の手で書かれた封書が届きましたので、わたくしもついかっとなってしまいまして、あなた様の手紙にもかかわらず考えもなしに開けてしまったのでございます。一度開けてしまった以上は、草干に対してどう言い訳したらいいものやらわかりません。無論草干はあなた様からお手紙が届いたことすら存じません。とは言い条、せめてあなた様にお詫びのお手紙をと思いたった次第でございます。ですから、何か特別な考えがあるでなし、ただ侘びの言葉と、このようなことを起こしてしまった次第とをほんの少しだけ書かせて御許しを乞うことにいたしたく存じます。…その手紙はだいたいそんなふうに書き出されていました。
 それから何度かお手紙のやりとりをするうちに、三田村さんが…いえ、草干がなみ子さんと関係を持っていたことを改めて知りました。けれども何より驚いたことは、草干の句はすべてたか女さんが書いているという事実でした。
 …なみ子様のお宅へ伺うようになってから、わたくしは再び俳句を作るようになりました。なみ子様は何もおっしゃらずにわたくしが句をしたためた半紙を一瞥するだけで引き出しのなかにお仕舞いになります。それを見るたびにわたくしの身体はきっと燃えるような疼きと陶酔とを感ずるのです…ある手紙にはこうも書いてありました。私はたか女の俳句の才を唯一無二のものだとさえ思います。けれどあの時分、私がたか女の句を読むときに感じた妙な感覚は、それが俳句そのものによるものなのか、あるいはたか女さんのお人柄を知ってのものなのかわからないのです。そうしてまた、あの時分、まだ見ぬたか女さんの姿を思いながら句を読んだときと、今こうしてたか女さんから少し離れてその句を読むのとでは、その句がまるで違うもののように感じられるのも、まったく不思議な気がします。
 
芋虫の這へば机の萌えはじむ    たか女
鞠つきの最後は胸を病むしぐさ
粘土もて冬のにんじん繕ふか
 

2015.8.25

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