【第8回】日録(8) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第8回】日録(8)

2015.07.31 | 森川雅美

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いくつもの手が動き更新される今日の感触の
眼が小さな形であっても腐敗はより進んでいき
はじまりの根本からすでに記される治らない傷の
長くなりながらどこまでも曖昧な背中に沿っていき
足元では小さなものたちの諍いが戯れにも似てつづく
途切れることなく放たれる処方にはうつらぬ輝きならば
ひとつの怒りもながく居つづけるためのささやかな抗いで
見える眼の片側のかすみに埋もれていく机上の暴動は固まり
まことしやかな嘘ぶきが微笑の横側をすり抜けたまま乾きいく
ただならぬ鼓動が何度も全身をめぐり内側からの小刻みの揺れに
絡まる怪しい目つきの人たちの思考の残滓を払い落としながら
今日の一瞬のすり切れた眼の方位を伸ばしていくせめてもの
追われる右足のにぶくも途切れぬ痛みのためにふっくらと
輝くてのひらが包みこむ落下の感触が広がりつつ温もり
見えなくなる右の眼の片隅は留まる意識の切片として
やや俯きかげんに目の前をいくつもの影が通りすぎ
笑う顔で流れる人の生の傾く名残りでありながら
ながく伸びる影が消え入りそうなほどに縮んで
突然に背中を強く押されぎこちなくふり返り

 

2015.07.31