【第12回】日録(12) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第12回】日録(12)

2015.08.28 | 森川雅美

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長針が一つ動き今日の一日が終わり
見上げれば明かりが目の内側に眩しく
掴むことなく日を追ってかるくなる
命の価値のかすかな囁きに背中押され
汀からゆっくり波及するざわめきに
半世紀の記憶を辿りながらも失われる
いくつもの物語の終わりがうそ寒い
光の明るさに消される現在であるなら
問い詰める明日に流れる重さの傾き
静まる掌にも人たちのざわめきはあり
長い列が連なり足音もなくうつろう
小さな人影が越えていく明と暗の内側
呼ばれるかたことの囁きにふり返り
背骨の燃える温度を考えるあるはずの
早朝の目の片隅の輝きを見るために
気づかぬ関節の奥の痛みに躓くために
越えていく肩先から見える減速の開き
まで劣化するいくつもの塔を見上げ
ひと時の停滞する風の行く方の湿度を
名残として肌がまだべとつきを感じ
微かなため息にまぎれ追い詰められる
すり足がいくつも地面を滑っていき
届かない忘れられた伸ばされた指先に
ぎこちない音声の高低が響きわたり
まだ上空で旋回を繰り返す一羽の鳥と
地の底の溶岩も絶えぬ振動のつづき
ばらばらに崩れかけたさらなる破片の
奥からの一点を見詰める小さな眼が
開いては閉じまた開いては閉じ消える
誰かが踏みつぶされた痕跡でもあり

 

2015.8.28