【第13回】日録(13) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第13回】日録(13)

2015.09.04 | 森川雅美

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静かの眼に落ちる悲しみが波紋となり拡がっていき、誰かもわからない人たちの声が小さなさざ波を立て、弱い右肩が少しずつ削られながらどこまでも浮遊し、その対岸の少しずつ失われる、
静かの唇を閉ざすこともできずに片言にずれる手足に、回復されることもなく言葉もなく静かに進行する、血管の内側からもゆっくりと分裂しさらに壊れいく、いつまでも終わらぬ道の筋の、
静かの首へななめ横側からの突然の風雨が吹き付け、崩れるからだのままに移りゆくならば冷えてもいく、かたちも分からなくなり足場がもろく揺らいでいて、脳の管のきしむ音も耳に響き、
静かの骨が弱まり微かな痛みとなり傷が開くならば、どこまでも見えなくなる前方に佇む人たちの表情の、嘲笑う口元だけ奇妙にくっきりと鮮やかに浮かんで、取り返しのつかない夕暮れに
静かの指の影が追ってくるあるかないかも分からぬ、明日の静かな目覚めのために少しずつ傾きいく体を、わずかに揺らしながら一歩ずつ歩を進めいく足先に。
緩やかな亀裂が深まっていく

 

2015.9.4