草の立つ山
廃校になつかしき朝おとずれて滑車は鳴りぬ門扉開けば
竹箒にボール転がす校庭に穂先ひろげてすすきの光る
おにぎりの具は三種とし握りおく向こうの敷地を刈りにゆく朝
おもしろい夢だったのに 起きながら何度も何度もあなたは言えり
母は鎌で刈りいたりけり左手の軍手にぎゅっぎゅっと草を摑みつ
日照る山に刈れば筋肉硬直し登り帰れぬままに時過ぐ
こぶらがえり、言うやつおったなふくらはぎ抱えて山に転がりにつつ
刈草のにおいのなかに黄ばみゆく昼のありたりいつかどこかの
廃校となりたるのちを水色のじょうろが二つ居残りており
日の本のくらき家屋にもの炊きて窓向くこころを抑えがたしも
漆喰の壁は陰影やしなえるわが下塗りをきみが仕上げて
根菜のかき揚げを食む夜の卓に言葉はゆっくり意味をなしゆく
一度ずつ鍵をなくせることありきあなたは川にわたしは草地に
このごろは近くまで来る夜の鹿の小枝折るおと目つむりて聞く
廃線のごとき眠りのどのへんか湿り気のある土を掘りいき
2015.7.25