【第3回】日録(3) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第3回】日録(3)

2015.06.26 | 森川雅美

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私たちは小さな石のひとつひとつ
掌に包みこめばあたたかく光り
指の先端から伸びるゆるい曲線で
内側から遠くまで続いていて
一であることは全てでもあると
明滅する無数の点が広がっていき
幾つもの声がずれながら重なる
大きな円の中心にある空白を
まわる鮮やかな色彩に塗りこまれ
発光する静かな関節の端まで
私たちは脆い石のひとつひとつ
羽ばたく瞬間の空気のざわめきに
目の内の奥底から明るくなり
かたちに結ぶまえの漂いのまま
見ることは見えないことの現れと
とても古い傷口の微かな震えを
溢れ出す泡の甘やかな香りの
割れる最初の種子の中心に重ねて
指と指ははるかに遠くで触れる
引き寄せる幾度も踏む足下の
私たちは消えぬ石のひとつひとつ
小さな水の粒が天から落ちて
弾ける音楽の数数へ突き刺さり
馴染んでいく地の面の隅ずみから
弱ることはまた強くなるためと
誰にも知られず仄かに煌めく
細胞核がうずもれた脈動とともに
時を超えた声として降りそそぎ
静かに境界を飛び越えていく
まだ留まる足に浮力を加えながら

 

2015.6.26