【第2回】日録(2) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第2回】日録(2)

2015.06.19 | 森川雅美

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掴むてのひらの感触が痛みになり
青空にはゆっくりひとひらの雲は流れ
誰かの見ていた眼の内側の風景が
たとえささやかな錯覚であるとしても
他人の傷口もやがては癒えると
てのひらからこぼれ落ちる小さな種子に
降りそそぐ雨は沁み込んでいる
忘却されるものとされないものの狭間で
誰のものでもない生を営んで
捨てさられた刻印がいく度も踏みつけられ
間近で親しい人たちは消える
すでに傾斜する町の片隅で立ち止まり呟く
声声がいくつも響きわたり
見上げれば壊れる空の色は目の裏側に流れて
ざわめく手首が満ちていく
日常の置きかえられる言説ははや空白になり
選別される光沢の欠片の
わずかな形が翳っていきちがう歪みの底を踏み
何処からか光る灰は舞い
ぼろぼろになる背の骨の死んでゆく細胞が膿む
始まりはいつでも美しく捏造され大声で語られ
踏み出しが見られていて
ゆめゆめ本当の事を知ってはいけないと耳元に
うつろう残像のゆらぎは
曖昧なおうとつになり何度も見失われていく
ひとつの悲しみに共鳴する
もう長くはない生き物の嘆きが遠くから届き
いつか見た風景は鮮やかで
西の山ぎわに飛ぶ鳥のかたちが小さくなり
近くのものは少しずつかすみ
多くの文字が記されたそばから消しさられ
背骨に沿い痛みは増していく
生を誰にも気づかれないまま営みつづけ
死んでいく羽が幾層にもつもり
横顔がすでに硬直したまま踏む足になる
ぼろぼろにいく度も継ぎ足され
誰もちゃんと死ぬことはできないねと
届かずに追われる道のりにつづき
らんらんと奇妙に軽くなる体の重心は
明日なんだとはや嘘ぶいて頬笑む

 

2015.6.19