詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

冬はつとめて

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【第13回】公園

2015.04.25 | 花山周子

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春の日の第三公園は、民家とアパートと塀に囲まれた小さな正方形の公園。一本立っている桜の木の桜の花はすっかり散って、広がる枝には小さな葉のひらひらと赤い芯がのぞく。その下の黒い幹に「動物(カラス、ハト、ネコ等)に餌をやらないで下さい」と太く書かれた看板が針金でくくりつけられ、根元に吹きだまった花びらがときおり風に吹かれて散らばる。散らばった花びらひとひら、ひとひらが貼りついた地面に、淡い影を落としてぎいぎい鳴っているブランコの上には二歳になったばかりの女の子が乗っかり、見上げれば公園の時計は午後三時。世の中はおやつの時間。見下ろせば、ブランコから約八メートル離れた正面のベンチに母親がオムツやお尻拭きやタオルや麦茶や財布や携帯が詰め込まれ土嚢どのうのようなバックを抱いて座っている。このベンチから、公園の入り口を挟んで右側にもう一脚並ぶベンチには片足を滑り落ちそうなほど前に伸ばして三十代くらいの男性が、画面の黒くなったガラケイをいじり続けて、もうかれこれ八時間。ということは、朝の七時に歩いてここにやって来た彼は、朝飯を食べず、昼飯を食べず、おやつを食べずに壊れた携帯に顔を俯けている。「来て!」とブランコの上の女の子が叫ぶ。母親はバックを置いて立ち上がり、歩いて行く。ブランコの前の柵を迂回うかいして、ブランコの前に行き、ブランコの上に乗っかった娘を抱き下ろす。ベンチに置かれた鞄から溢れかけているタオルの下に埋もれている財布のなかには一万円札が入っていたりするのだろうか。千円札が三枚といったところだろうか。少なくとも千円札一枚は入っているはずだ。だが、この公園でそんなことを考える人はいない。公園の入り口から鳩が入ってくる。
 

2015.4.25

 

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