冬はつとめて
絶えず動き続けている。黄色くなった畳の上の小さなパイプ椅子の上にぎしぎしと前後に揺れながらラッコのような二つの手で持った卵パンを噛み砕いては、ふんふん言って、片足ずつ、こたつ机の上に乗っけるのを私は斜め上から睨みつける。睨みつけられた顔面がうにょうにょと動き、体がふにゃふにゃと揺れる。私は少し後ずさって自分の大きな手の平をこの小さな生き物の前にかざす。彼女の姿が視界から消える。居間の中は急に静かになった。初夏の夜の、生ぬるい風がカーテンを動かす。電灯のオレンジ色が明るすぎて、白い壁も、黄色い畳も、畳の上に散らばったおもちゃの色彩も、こたつ机の上の雑然も、なつかしく遠い遠い生臭い記憶。押し寄せるように私の手の平をはみ出して娘の体が私の視界をふたたび埋める。
2015.5.2