【第15回】ちいさなよるのうた | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

とうめいなおどり

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【第15回】ちいさなよるのうた

2015.09.17 | 三上その子

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愛しているという言葉を
避けていた
心をつくして
避けていた
明日
死んでもよかった
生きていてもよかった
うつくしい本を
そっと閉じるように
ひとときを
逢えるときを
閉じていった
 
そのひとは
男だったり
女だったりした
どちらでもよかった
涙ぐむようにして
逢った
いつでも
腰はうごいた
 
神様みたいな人たちが
まちがっている と
注意してくれた
ふかく想いを育み
命をつなげてゆく
ほかに
何が大切だろうかと
 
愛している と
微笑みあえること
手のひらに光を
受けるようなこと
 
今でもそれは宝石だ
 
でも
愛していない
と 告げあうことで
同じくらい
うつくしい瞬間がある
 
身体が
教えてくれた
いつでも
教えてくれた
嘘をつくと怒った
だませなかった
 
愛しているという言葉を
愛していた
今は
愛していないという言葉も
愛している
 
どちらでもよかった
どちらも大切だった
どちらもささいだった
戦争も人殺しも
あってよかった
だから
なくてよかった
 
愛しているという言葉を
避けなかった
ありのままにあの日
避けなかった
それは嘘に
なっていった
もっともうつくしいものは
ひとときの正直さの中にしか
ない
 
もしも
あなたを毀してしまったら
ごめんなさい
私が毀れたら
ごめんなさい
もちこたえるから
あと 少し もちこたえるから
 
覚えて
いてください
あなたにはどう見えた?
 
その姿だけを忘れないで
 
ハスの花のように
泥に咲いていました
闇を愛しました
だから
光がみえました
 
覚えて
いてください
 
私が神様でなかったこと
人間で あったこと
そのことを深く
愛したことを
魂が 芯から匂いたつように
幸福であったことを
 

2015.9.17