【第12回】泣く | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

とうめいなおどり

とうめいなおどり

【第12回】泣く

2015.08.27 | 三上その子

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あなたは乳母車から
水が噴きだすのを見ていた
 
そこは公園で
季節は夏だ
ゆらめく太陽の下で
噴水の細い水の束が
八方から中央めがけて噴き出す
 
あなたはさっきから
お尻が痛い
クッションの下で 
おしゃぶりが
同じところに当たっている
 
憂鬱と言う言葉を
あなたは知らない
まだ知らない
 
噴き上げる水のように来る
やって来る
お腹から来る
 
──うわああああん!

あなたはいつもびっくりする
この声の主は誰かと
 
やがて
サッカーに夢中になる頃
あなたは忘れてしまう
あなたといた
もうひとりのこと
 
覚えるのは
ボールを蹴って
蹴って
蹴り飛ばして
 
誰かをゴボウ抜きにすること
 
あなた方がふたたび
出会うとき
 
次の
 
物語が始まる
 


2015.08.27