【第10回】それをしも詩と呼ぶのなら | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

誰でも明日のことは考える

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【第10回】それをしも詩と呼ぶのなら

2014.07.14 | 城戸朱理

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夏至の水銀柱が登り詰めたところから
積乱雲が生まれ、
また積乱雲が生まれ
巨大な渦を巻きながら列島のなかばを覆った

南木曽、読書地区
「よみかき」という地名には
およそ読みえぬものが潜んでいる
花崗岩質の地層は水を吸い
あるとき、一気に崩壊する
滝のように降り注ぐ白リン弾、
降り注ぐ戦争のように
君は、非常が非常でなくなった今日を生きているのに
日常にため息をついている、
たとえば、明日の約束のことなどを

明日になれば、雨は上がるだろう
明日になれば、この激しい雨も上がって、
ようやく晴れた空が広がるに違いない
明日になれば、メールの返事も来て
明日になれば、明後日の予定も立てられる
きっと、明日になれば

「よみかき」という地名には
何か読みえぬものが潜んでいる
教科書では、決して教わることがないような
地上のテクストでは知りえぬような
言葉なのに、およそ言葉とは思えぬような。

もし、それをしも詩と呼ぶのなら
世界と測り合えるものだけが、その名に値する

読みえぬものであるならば
きっと書きえぬものでもあるのだろう
学校の音楽室からは、いつもピアノが聞こえていた
誰も登校していないはずの日でさえ。

その眩しさに思わず目を閉じる

タイフーンが通り過ぎたあとの空は、あまりに明るい
絶望さえ隈なく照らし出し
白日の下にするほどに。

2014.7.14