【第7回】アスピリンが必要な夜 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

誰でも明日のことは考える

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【第7回】アスピリンが必要な夜

2014.06.23 | 城戸朱理

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水着を広げたら
去年の砂がこぼれ落ちた

骨を砕いたような白い砂は
鋭角に光を滞留させ、
南洋から、こぼれた時間のように見える
何か、取り返しのつかないものに。


もう、声は聞こえない

そうだった。
夜中に何かを考えるのは、君の悪い癖だ
後ろ姿がひるがえる旗のように遠ざかっていく

昔、観た映画のように。

だが、なぜ昔観た映画なのか
なんで、遠いのに鮮やかな記憶のなかの一シーンが甦るのか
そんなふうに記憶が呼び出されるのなら
私は記憶で出来ているのだろうか
あるいは、私の記憶が私を形作っているようなものなのか
私が記憶で出来ているとしたら、
その記憶は私が死ぬとともに消えるのだろうか
砂の城が波にさらわれるように

そう、君は夜中にものを考えすぎるのだ


私も誰かにそう言った
たしか、そうだったと思う
こんな夜には、アスピリンが必要だ

もう、声は聞こえない

今、七通のメールを消去した

2014.6.23