詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

やねとふね

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【第8回】殺人者

2014.07.04 | 河野聡子

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わたしの国とこの国のあいだには国境がある
そこは宙ぶらりんの危険な場所だ
危険な場所なので、たくさんのひとが死んでいる
わたしの国では
ひとは死ぬとそのまま死んでしまうものだった
ひとが死ぬとわたしの国はさびしくなった
ひとり死ぬとわたしの国はひとりぶん縮んで、すこし狭くなる

わたしがわたしの国を出たころ
ひとがいなくなることによってわたしの国が将来どうなるのか
漠然としかわかっていなかった
これは国力の問題だと言われていた
国境へ行くのは禁止されていた
わたしの国では
わたしはできるだけながく自分を引き延ばさなければならなかった
わたしの国では
何ものも殺す権利はなかった

この国ではいろいろなことが逆のようだ
信じなくてもいいのだけれど
今日も幽霊たちは噂話に夢中だし
いくらひとが死のうともこの国は小さくならない
この国では死んだひとはすぐに生き返るし
そうでなければいろいろな理由で死んだままでいる
こどもたちは鳥のふねから無限にこぼれおちてくるものだし
こどもたちと、生き返るひとと、死んだままでいる幽霊たちのおかげで
この国はどんどん広くなる
だからこの国では殺人がさかんだ
この国では殺人は生産である
殺人者はいろいろなものを作り出す
殺人者はこの国の礎だ

幽霊たちは自分を殺した人のうわさを果てしなく続けている

わたしはわたしの国を死なずに離れたから
わたしの国はまだわたしの分だけ縮まずにいる
この国はわたしを引き延ばさなくてもじゅうぶん大きさを保っている
生産するために殺されることに気をつけて
わたしはまだじゅうぶんな大きさを保っている

2014.7.3

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