やねとふね
曲がる地平線に斜めから光がさしこんで朝がはじまる。今日もふねがやねのうえをわたっていく。やねのふねをみるのは楽しい。銀と白と紺色の鳥のようだ。一瞬の光のすじを残しツバメのようにすべりこんで、おなかを覆うつばさがひらき、たくさんのこどもたちがあらわれるのをわたしはみている。まるでたった今生まれてきたかのよう、謎めいた奇跡の恩恵のようだ。みんな白い服を着て赤い帽子をかぶり、前のこどもと手をつないで、じゅずつなぎになっている。後ろを歩く若い男がこどもたちを完璧に操縦している。このふねはこどものふね、若い男はセールスマンで、こうやって毎日こどもを売り歩いているのだ。わたしの国ではこどもをつれてくるのはコウノトリだと言われていたが、この国ではツバメのふねがこどもをはこぶのだ。若い男が手を振る。前をあるくこどもたちは白い産毛のひなのようによろめきながら横にならび、つぎに縦一列になり、そのつぎの一瞬で折りたたまれ、一枚のハンカチになり、若い男の手の中に納まる。係員が書類をさしだし、男はサインをし、アタッシェケースをあけて、ハンカチをしまう。こどもたちのハンカチ、こどもたちそのものであるハンカチ。こどもをああやって運ぶのは合理的だ、とわたしはぼんやり考えている。山道を歩いて学校へ通った日々を思い出しながら。あのこどもたちは、どこからきて、どこへいくのだろう。ちいさな丸い玉子をあつめてふねのなかでていねいに孵し、生まれた羽毛のかたまりが分配される、ぴかぴかのパンフレット。こうやってこの国は危機を脱しました。セールスマンの長い指がハンカチをひとふりすると、わたしの前に手品のように真っ白い鳥がはばたき、横にならび、あなたにも買えますよ、とさえずりはじめる。