詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

やねとふね

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【第4回】幽霊

2014.06.06 | 河野聡子

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手すりから身を乗り出してやねとふねを眺めていた雨の午後
はじめて幽霊と話をした

この国には幽霊がたくさんいる
やねの上に、人間の眼にはみえない層があり
霊たちが溜まっているのだという
特定の層、特定の溜まりから、特定の幽霊が出現する
どうやって幽霊が生まれてくるんですか
生まれてくるわけじゃありません。ずっと死んでいるのだから。
役人は説明する。
あれは湧いてくるのです。
ぼうふらのようですね。
ぼうふらのようです。

この国の霊たちはおしゃべりが大好きだ
ずっと死んだままなので昼も夜もなくしゃべりつづけている
ほとんどの場合は、ののしりあったり、愚にもつかない議論をしている
生きているものが口に出して話さないことを幽霊は声高に話す
生きているものが正しく言葉にできないことでも幽霊は話すことができる
たいへん騒々しい
あまりの騒々しさにわたしはしばらく幽霊に慣れることができなかった
わたしの国の幽霊は土からあらわれ、軽々しくおしゃべりなどしない
この国の幽霊はやねの上に湧く
やねの上に幽霊たちが吐き出す記憶と言葉の層がある
死んだままでいればけっしてひとりにならずにすむだろう

わたしが話したそれは青いやねの上にいて丸く黒い帽子をかぶっていた
前のめりに立って静かだった
つい話しかけてしまったのは、あまりにも静かだったからだ
わたしの国のように

あなたが死んでいることを証明してください。

そうしたら聞こえた
ずれたような音と一緒に、
わたしが殺されたことを証明してください。

そしてたちまち青い塊となって崩れおち、やねの上をすべりおちた

2014.6.6

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