詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

やねとふね

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【第3回】ガーデナー

2014.05.30 | 河野聡子

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この国の土は清浄である
この土で育てられたものは正常である
あの国の土は清浄でない
あの土で育てられたものは害をなすだろう
わたしはむかし土を掘ったときのことを憶えている
わたしの国はあの国と呼ばれている

土を掘る。
掘っている、底からふかく、掘りかえす。
高く突きたてよ。
覆いをとり、発酵した落ち葉のにおいを嗅げ。
地を這う虫に感謝し、祈りをささげよ、ひざまずいて、
おまえが生まれ変わりたいものへ、
湿った空気が割れ目から吐きだされまるくとじて落ちていく、
きけ、土が、深呼吸するのを、うねをつくり、
ちいさな穴と、宝石のような硬い殻の、種をまく、たくさんの種をまく、
呼吸できないほどあたたかい土のしたから、息苦しさに耐えかねて
うえへのびていく。

この国の人々はやねに種をまいている
消毒された肥沃な苗床がみどりの芽に覆われ
強い光を吸いこんでいる
すべての発芽した種を移植する
なにひとつ無駄にしない
誇らしげに人々はやねのしたで涼しく暮らす
この国の土は正常です。
あの国の土とちがって。
すべての生命は平等にその生命をまっとうする
ガーデナーはその手助けをするでしょう

わたしの国の屋根はとても遠くにあったから
わたしはいつも種を足元にまいた。
足のまわりを動物が、害虫が、細菌が、ウイルスが、
やってきては通りすぎた。
雨が降り、陽が照った。
わたしの土は、清浄な土ではなかった。
わたしの土は、きれいな土だった。
靴底の小石や、死んだ動物や、虫や、発酵した枯葉がまじった、
いいにおいのする、おだやかで、ためらいのない土だった。
わたしの国の遠く高い屋根をこえた日から、
わたしはわたしの土から切り離され、
いま、きれいなやねに種をまいている。

2014.5.30

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