詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

流星の予感

流星の予感

【第15回】第十五週

2014.04.21 | 山田航

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  ちぎれるかと思うくらいに君に強く手を引かれて走り出す。
  君はもう行き先を決めていた。
  乗り捨ててきたはずのハーレーがそこにあった。
  これは幻だろうか。
  今からこのハーレーは、朝日と見間違い跳ね起きる間抜けを生むような、
  炎の塊へと姿を変える予定だ。

トイレットペーパー型のマシュマロを溶かせば夜に浮かぶ新月

  窓から飛び降りて屋根伝いに逃げて、
  ハーレーは嬉しそうに唸りだす。
  角のガソリンスタンドをめざす。
  この時間はもう無人だろう。
  僕はポケットの中のライターを確認する。

血を欲すごとき火花の点滅をかうもりとして心臓に飼ふ

  左手の指輪にくちづけをしながら走る。
  君もふざけたような表情で真似をする。
  あらゆる地獄の中で、灼熱地獄だけが、
  本物の地獄を見てきた人が伝えたものだと思う。

わかつてる、こんなの月夜ぢやないくらゐこれは受刑者の演劇指導

仰向けの君と、
うつ伏せの僕。
こういう姿勢じゃなきゃ左手どうしをつなげない。
人間の体って厄介だ。


顎にあたる床が冷たく、熱に包まれる世界のわずかな涼になっていた。
君は真っ赤な空をひたすら見上げ続け、
僕はねずみ色のコンクリートの小さな気泡に神経を集中していた。
そしてどちらからともなく、
ふたりは連歌をつなげて時間を潰し始める。


ほら赤い空が見えるよ真夜中の
コンクリートの奥の明滅
心臓と呼吸こんなに近づいて
シルエットにもなれないお化け
夜明け未満のガス爆発を載せたまま
ふたり汚れたジープにならう
真つ暗になりゆく視界かすめとる
太陽といふ怪盗がゐた
最高のソファだつたよ電気椅子
きれいだつたよゆびわのひばな
ねえもう寒い思ひ絶対しないでね
陽炎のなかの灰かぶり姫

  かすかにちゃりちゃりと音を立ててこすれ合う二つの指輪。
  固く左手と左手を握り締めて、
  熾天使が降りてくるのを体中で感じている。
  このまま僕たちは、
  骨までも溶け尽くして、
  指輪しか残らなくなる。


2014.4.21

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