【第12回】第十二週 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

流星の予感

流星の予感

【第12回】第十二週

2014.03.31 | 山田航

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  僕たちがやっと合流できた場所は
  なんてことのない大きな街の駅の変な彫刻の前だった。
  君は肘を軽く擦りむいていた。

へその緒の龍をからだに刻みつけみんな陽気な天文学者

  ハーレー・ダビッドソンはいたずらに目立つから困る。
  草藪にでも隠しておくさ。

簡潔な記事の末尾に記された「喪主は未定」の五文字を撫づる

  調べはついているよ。
  この雑居ビルの301号が、
  鍵もかけられずにずっと放置されている。

僕は夢をしづかに殺しつつあるがあかとき濡れた傘を閉ざしぬ

  ずいぶんと暖かくなってきた街だ。
  僕らはしばらくここでおとなしくてしているしかない。
  さあ、こっちにおいで。

鮮やかな運指でさばくエチュードの君は翻訳家のやうな顔つき

  くちづけは三・三・三のリズム。
  三連符のように弾み、そぞろに心が浮き立つリズムだ。

月が窓を閉ざす

  荒々しく衣服を剥ぎ取るのは五・五・五のリズム。
  不機嫌な男が拳固で机を叩き続けるような、ごつごつとしたリズムだ。

夜更けまで鳴り止まぬ春嵐

  強い抱擁は七・七のリズム。
  一度流れ始めた川はもう誰にも止められない、そんなリズムだ。

吐息途切れて一瞬の闇

  体温の重なりは五・五・七・五のリズム。
  絶え絶えに喘ぐような息遣いからはじまり、
  体ごと覆いかぶさるような途絶感へと導かれてゆくリズムだ。

揚羽蝶舞ふ日々よ裏切りこそが真の愛

  激しい風に紅の花散るときは五・七・五・七・五のリズム。
  あまりにも未熟で、悩みらしい悩みを持たない者の、
  うまく着地しそこなった拙いリズム。
  そうだ、僕らのひどく間抜けな結末は
  出会ったときから決まっていたんだ。

「かなしみの凝固剤かもしれないね。水道水に混じってる。」

  わかってる。

  もうこれで最後なんだ。
  何もかも。


2014.3.31