【第10回】第十週 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

流星の予感

流星の予感

【第10回】第十週

2014.03.17 | 山田航

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  ボロボロのハーレー・ダビッドソンの前。
  約束の時間を過ぎても君は来ない。
  きっとこの腕時計がポンコツなんだ。

公園が真ん中にある街 希薄塩酸めいた昼空の下

  ドーナツ屋のことは土星。
  青い外装のベーカリーカフェのことは水星。
  お定まりの待ち合わせ場所に惑星の名前を勝手につけて呼ぶのが
  いつからか二人の習慣になっていた。

ひとりつこ同士の恋はあてのない旅と同じで寄り道ばかり
ドーナツの油かがやく指のままべたべた触れ少年画展

  そして二人でやっと手に入れることができたはずの
  青い海にまみれた「地球」は、
  君の体内から燃えさかりはじめ
  日々どんどん膨らんでゆく「太陽」に、
  飲み込まれだそうとしていた。

「純粋」と「無罪」に同じ語を使ふ言語のやうに笑ふぼくらは
感覚に反逆をした罪により階段で寝てゐた朝もある

  「太陽」を前にして僕らは呼吸ができなくなる。
  それはたとえば、
  ローマ字で書くと回文になる短歌を作らなければいけないような、
  無意味でなんの充実感もない緊張にさらされることだった。

「う、寝起きか?」はつなつ込めて息の野に消えて木炭、歌は聞こえぬ
(UNEOKIKAHATUNATUKOMETEIKINONONIKIETEMOKUTANUTAHAKIKOENU)

君はやはり来ない。
ハーレー・ダビッドソンはどんな惑星だったんだろう。


2014.3.17