【第10回】日録(10) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第10回】日録(10)

2015.08.14 | 森川雅美

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いくつもの内側を吹き抜けていく風の
不意に声をかけられふり返る時に
残像が飛び火する映像に付着した赤の
多くの人たちが規則正しく行進する
現れる前の潜在する可能性として
ここからの遠い点へと向かう眼差しの
伸びていく先に目を凝らし緩やかに
消える過去か未来かも判断できず
少しずつ白んでいく記憶からの底部
落下する鼓膜に残るいくつかの戯言の
もろもろの繰り返しでもあるから
なお掘り起こされるがらくたたちが
名付けられるよりも鮮やかに散る
半世紀の瞼の内側は放火され見失い
またもより加速される先のうそぶきの
すみやかな偽文字が巧妙に蔓延し
関節のあたりから蠢く腫瘍に侵され
近くはより早く失明し距離を問う
ままに掌は当てもなく空をさまよい
わずかな起伏である明暗の湿度へ
眩しさに欺かれる少年の表皮の疼きの
かたことに綴られる真夏の夕暮れに
ながく伸びる汗したたらす人影を
知らない温度に手首を強く掴まれる
見たであろうまっすぐにつづく道
まるで異なる街並みがなおもかすみ
裸の足裏をこする道の草の痛みと
残像が飛び火する映像に付着した赤の
痕跡が数多の冷めた微笑みに曝され
また積み重なる仮そめの交代劇に
輝きながらぼろになる緩い上り坂に
抗う意思の一片一片が散りいそぐ
裏側には多くの白紙が舞い散りつつ
くり返すすでに消された名のため
炙られる足の先の記憶が熱を帯びる
訪なうはるか彼方の霊たちの絹連れの

 

2015.8.14