【第9回】日録(9) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第9回】日録(9)

2015.08.07 | 森川雅美

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静かにしずむ夜のさきの片言をつぶやかれながら
いつでもゆがむ空の端の見えぬ足音が響きわたり
積み上げる無数の禁忌が押し潰されひしゃげ破れ
あたり一面に流れ拡がるだれかの哀しみの虚ろに
燃え上がるちいさな炎に親指の先がふかく傷付き
はじまりは無知の装いの見える方の片眼をつむる
過ぎていくままの歩行を佇みと呼びつづける怠惰
晒される土台が今の時の問いの切口であるならば
乱雑な輝きが見えてくるさらに先の先の奈落まで
埋もれる高度からの眼の渡っていく記憶の磨滅の
崩れる安らぎのひと時の
喪われる右手首の感触の
問われる朝の最初の光の
弱る足首の積みかさねの
人は深い切傷の別称なの
人は動けぬ生の痕跡なの
かえりみられない囁きの
ぶらさがるままの時計の
他人の背中のざらつきの
ばらける原風景の狭間の
散り散りになる生の場の裁断された破片の横顔の
いまだ小さなまま震える鳴り止まない低い音まで
まだなお晒される亀裂の傾ける落差であるならば
つづく染いる穢れの先をさらに深ぶかと穿つ殴打
はじまりは無知の装いの姦しい戯言ばかり転がる
歪んだまま停止した虚にもうあまたの情報が欺き
甘言は蕩けて脳に沁みるうそ寒い善良な目付きに
終わりない酷薄な飛来が付着するそばから問われ
語れない出来事の結末の半世紀から堆積物は滑り
もっと早く崩れる岸辺の水泡は体に沁みこむから

 

2015.8.7