【第4回】日録(4) | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第4回】日録(4)

2015.07.03 | 森川雅美

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ぼくたちは水よりもなおはやく流れる
ひがな一日をよろめき歩く足取りで
同じ曲り角を何度も何度もまがり
忘れられない記憶は忘れられぬまま
光が満ちあふれる午後の平穏なひと時
と微かな声で呟きながらふくよかな
蛇行する川に沿いただひたすらに
静かになる瞼の内側であるとしても
うずくまる小さな生き物が黙って見る
ながく続く安らぎは途切れ晒され
フラッシュバックする幾つもの風景、
置かれる捉えきれない何かとして
わずかな狭間からの生す魂の問題は、
切り捨てられる今の温もりを伝え
まだ明日とは呼べない陽射しが射し
ぶらさがる人たちの無数の抜殻は
ぼくたちの内側にいたく突き刺さる棘
跳ねあがる残り香として壊れていく
ひずみの地形の起伏へと還元され
包みこむ柔らかな掌に見詰められる
襞が重なりながらなおも広がっていく
としてもバラバラに切り刻まれつつ
正面から強く押しもどされる風圧
眼の前が眩む長く伸びいく道のりで
踏みつけるなごりの内側から漏れ入る
一度だけの陽光に浸されつづけて
まだ燃えつづける人たちが点てんと
いつまでも消えず問いの形になる
空は一面拡がる誰かの悲しみに似た赤
記憶の消えいく囁きにうながされ
崩れていく両掌をいまも握りつづけ
ただちいさな染みに近付いていく

 

2015.7.3