【第15回】クロスワード | マイナビブックス

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塔は崩れ去った

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【第15回】クロスワード

2014.12.23 | 福田若之

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 近代的なクロスワード・パズルのはじまりは、1913年12月21日発行の『ニューヨーク・ワールド』誌の娯楽欄「FUN」に掲載された、イギリス人記者アーサー・ウィン制作のクリスマス企画だった。それを見ると、娯楽欄のタイトルである“FUN”の文字だけがあらかじめ印刷されていて、ほかの空白を埋めるためのカギがパズルの下に並んでいるのが分かる。
 このパズルは、ウィンの命名では「ワード・クロス」だった。すなわち、語の十字。クリスマス企画ということもあって、パズルを考案するのに十字架のイメージを取り入れたのだろう。
 ところで、ウィンは“FUN”の語の真ん中の“U”と交差してちょうど十字架の形をなす一語に、いったい何を選んだか。この語を導くヒントとなるタテのカギ1-32は"To govern."(「支配する」)だ。したがって、その答えは"govern"の同義語、「支配する」という意味のアルファベット4文字の動詞、つまり、“RULE”ということになる。



こうして楽しみ(ファン)規則(ルール)と交わる――クロスワードの、だけではなく、あらゆる言葉遊びの本質だと思う。



 英米圏では、通常、クロスワード・パズルは書き込まれる前のマスが綺麗な対称形になるように作られる。このことに着目した第15代アイオワ州クロスワード愛好者協会会長のフランクリン・ナッツマン氏は「クロスワードを解くことは、本質的に対称性の破れを引き起こすことであり、したがってエントロピーを増大させることだ」と述べた。しかし、同協会発行の会誌上で、あるソーカル派のコラムニストがこの発言を取り上げ、「ナッツマン氏は物理学をまるで理解していない」と激しい攻撃を加えたことにより、氏は辞任に追い込まれてしまった。
 ちなみに、その後、氏は第17代アイオワ州クロスワード愛好者協会会長を務めた。
 



 


2014.12.23