詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

塔は崩れ去った

塔は崩れ去った

【第14回】数値

2014.12.16 | 福田若之

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俳句は、世界最短の詩型だとか、あるいは、世界でいちばん小さい詩だとか、言われることがある。17音節。――それでは、次の値はどうだろうか?

 
17センチメートル。
 
……短い? ギネス世界記録の最新の版によれば、これは世界でいちばん口の横幅が広い人間であるフランシスコ・ドミンゴ・ホアキンの口の横幅だ。
 
記録に残る17は幸いだ。人は多くの17を忘れる。17は忘れやすい。決して、キリのいい数ではないから。それはあなたがいつかバスで乗り合わせた人間の数だったかもしれないし、それどころか、ひょっとしたら、あなたにだって、かつて17歳だったことがあるんじゃなかったか? それともこれからか、あるいは今だろうか? 人口の大部分が17歳までに命を失う地域もある。アフリカ、全身に刺青を彫る民族、集落の誰も文字を持たない。
 
17歳という年齢は、決して人間だけのものではない。猫で17歳といえば、もうそれなりの高齢だ。江戸時代の怪談集『耳嚢』によれば、猫は10年も生きれば人の言葉を理解できるという。この文章もどこかの猫が読んでいるかもしれない。ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のレコードには、20000ヘルツの高音が、「動物向け」の音楽として録音されているのだった。残念ながら、この文章はとりわけ猫のための散文というわけではないけれど。
 
結局のところ、17とひとくちにいっても、単位のついていない17は、それだけでは0でも∞でもないという以上の意味はない。17センチメートルは6.69インチ。実際には数値それ自体にはさして意味がないのが分かるはずだ。17は、それだけでは大きいとも小さいともいうことができない。
 
ジョン・ケージは5・7・5拍子のピアノのための小品を書いて、それを『俳句』と呼んだ。でも、5・7・5音節の俳句は、実際のところ5・7・5拍子ではない。
 
5+7+5≠5+7+5
 
リズムに乗らなくても、ジャック・ケルアックの次の俳句のほうが、よっぽど俳句だと感じられる。
 

 Missing a kick        蹴りそこねた
 at the icebox door      冷蔵庫の戸
 It closed anyway.       どのみち閉じた。
 

 だが、実際のところ、ことばの大きさは、拍数どころか音節数を比べても分からない。高濱虚子の〈凡そ天下に去来ほどの小さき墓に参りけり〉は、大橋裸木の〈陽へ病む〉よりも小さいのではないだろうか?
 
25<4
 
それどころか、裸木の句の道程は、ひょっとすると、ケルアックのあのひとつづきにタイプされた『路上』と比べてさえ、ずいぶん長いかもしれないのだ。
 
「17は小さいか?」
 
俳句は何かしらのかたちで、この、やたら具体的で、かつ、やたら抽象的な問いを投げかけながら、それと同時に何かしらのかたちで答えを投げ返す。しかも、ときには17ではなく25を示すことでこの問いを発し、また、あるいは4を示すことでこの問いに答えるのだ。それを禅の問答と呼びたければ、あるいは呼んでもいいのかもしれない。
 
17は小さいか? 手毬ぼむぼむ
17は小さいか? 階段で春
17は小さいか? 冴えかえる楡
17は小さいか? ぶらんこに苔
17は小さいか? 蝶が屁をした
17は小さいか? ビール手に爪
17は小さいか? 地図暑い闇
17は小さいか? 波のプールに
17は小さいか? 仰向けて蝉
17は小さいか? 秋なのも海
17は小さいか? 蜻蛉を素描
17は小さいか? 現象の栗
17は小さいか? 紅葉が煙る
17は小さいか? 古びゆく熊
17は小さいか? 凍えるかもめ
17は小さいか? 炬燵的午後
17は小さいか? 息白く漕ぐ
 
∴17×17=?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?+?=365

 
2014.12.16

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