【第15回】虹の玉 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

POETRY FOR YOU

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【第15回】虹の玉

2014.12.22 | 文月悠光

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鉛筆の芯を包んだあとに
名も無い切り株になった。
聖夜、ケーキの幹を崩したら
年輪はふっつりと切れてしまった。
どこを切っても甘くなるように
人はちゃんと考えている。
からい苺も残さずに
月日をみんなたいらげた。
 
玄関を虹の玉が渡っていく。
家々のドアスコープを
太陽は律儀に覗いているらしい。
その目、絶対に見てはいけません。
ただし呼び込むことはできるから、
小さな虹を振り返って
かくしごとを明かそう。
 
痛み切った果実。
かじかんだ指に
菌の温かさが染みていく。
誰かの生きたい場所に
わたしは含まれてしまう。
年輪を幾重もかけ違えている。
そう、
これもひとりでは書けなかった。
そろそろ覗いてみようか。
片目をつぶったあの人と
虹の玉を見せ合うときだ。

2014.12.22