【第11回】舟の帆 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

POETRY FOR YOU

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【第11回】舟の帆

2014.11.24 | 文月悠光

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鳥たちの目は知っていた。
人間は、風を受けてすすむ
ちいさな舟の帆である。
海から吹く風に、
人々の身体がほどかれて
一斉に漕ぎ出していく。
あのなかに箱舟を探す。
尾も持てなかったわたしなのに、
乗せてもらえるかどうか。
 
長い箸でやさしく骨を取り除き、
やわく崩れるものを口に運び上げる。
この先、口にのぼるすべての光、
すべての雨が、刃を帯びるだろう。
「隣で煮えているものの正体を
知るすべがないのです。
同じ鍋の中に沈んでいても――」
そのとき、湯気が満ち潮のように溢れ、
蓋はしずかに下ろされた。
 
ここは手足が連れてきた場所。
手の中にあつめた砂粒を
声には出さず、かみしめている。
舟の帆を裂いてください。
この星を寝かしつけてください。
わたしはページをめくっている。

2014.11.24