【第9回】一羽の血脈 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

POETRY FOR YOU

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【第9回】一羽の血脈

2014.11.10 | 文月悠光

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駆け出すと、途端に手足を見失う。
大手を振って、と言うけれど
それはわたしの身体を振りはらうこと。
アスファルトに一歩を弾かれて、
しびれたように立ちすくむ。
休息もまた、わたしには向かない仕事。
もっと厳しくしてもらいたい――。
強がる身体を離れられるわけでもないが、
卵のように転がしておきたい。
 
真新しいかなしみにほどかれて
ありとある願望が目の前を横切っていく。
「お星さまだ!」
少女の向かう先々に必ず窓は開かれる。
駆けながら振り向き、
ふるえる羽を背に確かめる。
電線に絡まる髪を器用にくくり、
網目の街を見定めようと。
 
星々の群れのなかに
青い卵が見えるだろうか。
孵化した地点にはしごを立てて、
空と寄り添う約束なのだ。
紛れもない一羽の血脈として
茜雲をいきわたらせる。

2014.11.10