【第7回】スイッチを渡す | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

POETRY FOR YOU

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【第7回】スイッチを渡す

2014.10.27 | 文月悠光

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一度も会ったことがないので
その人が死んでいるという気がしない。
押してへこませたスイッチを
押してまた戻してやるように
生死を行き来できるとしたら、
わたしは
わたしたちより多いかもしれない。
 
曾祖母は白樺の木の皮を剥いで
そこに歌をしたためたという。
乳白色の皮に筆を滑らせると、
なぜだか頬がピリッと痛む。
ブリタニカ国際大百科によれば
白樺は葉に「二重鋸歯」を装備している。
切り倒される前にその歯を折って
皮の余白をかすめ取っていく。
そんなものだろうか、詩は。
 
土をかけたら人は眠るのだ。
誰にも彼にもいい顔していたその顔が
むっつりと黙り込む。
あなたが死んだら
あなたの皮をください。
荒れ野の土を撫ぜている少女に
スイッチを渡す。
ぱちんと音がして
空が明るくなる。

2014.10.27