【第5回】枝葉のてあし | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

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【第5回】枝葉のてあし

2014.10.13 | 文月悠光

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子を「できる」と言ってよいものだろうか。
袖口をまくり、あやすように手をひろげれば
腕のあいだ、むっくと起き上がるものがある。
驚いて飛びのいた拍子に、
だっこひもから枝葉のてあしがこぼれ落ちる。
わたしが抱いていた何かと、
わたしを抱いていた何か。
乾いた音が鳴りやまない。
 
出会えない人たちへ
言葉を落とし続けている。
人と人の空隙に狙い定めて
文、字、を、打つ。
「持ち主に返そうとしているのです」
うそぶくわたしを恨んでも、
次に会うときはわからない。
雪に抱かれる冬を越して
たくましい幹になっているから。
 
それぞれの心音をつなぎ合わせ
ひとつのからだになるように
枝葉のてあしを拾い集めた。
確かにできる、できていくようだよ……
覗き込むとそれは
樹洞のなかで手をつくり
はじめの息を吸うところだ。

2014.10.13