【第13回】夕焼けが紅いのは | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

誰でも明日のことは考える

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【第13回】夕焼けが紅いのは

2014.08.11 | 城戸朱理

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煙草の煙がゆらめいている
それを取る手もなければ
消す手もないままに。
煙は立ち上がり、広がって
しずかに大気に隠れていく
そんな気配が
朝の空気に潜んでいる気がしたのだが。
 
楕円の軌道を描く月が
もっとも地球に近づく夜
明け方近くには、ペルセウス座流星群が
観測されるはずだった
だが、空は厚い雲に閉ざされて
星々は雲の裏を流れていった
 
誰の願いも届かず
木々は雨に打たれて冷たい
 
激しい雨は丘陵を洗い
川は氾濫する
巨大なタイフーンがもたらす災厄に
人類は慣れることがないまま
島々の西は豪雨に閉ざされ
北のはずれには地震が発生する
 
そんなときだ
人間がどれだけ壊れやすいかを思うのは
そんなときだ
生命がどれだけ脆いかを改めて思うのは
そんなときだけだ、
幻に追われているかのように
人間の精神が壊れていく
 
あまりの暑さに斃れる人もいる
厳しい寒波は備えなき人をたやすく死に誘う
ときには蜂の一撃で破裂する人生もある
人間は、あまりに壊れやすい
そのことを教えるように
事後の大気は澄みわたり
夕焼けはあんなにも紅い

2014.8.11