詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

やねとふね

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【第12回】創始者たち

2014.08.08 | 河野聡子

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むかしむかしやねのうえから
さびしい夜がやってきて
おじいさんとおばあさんの
おへそをぬすみに
家にしのびこみました
 
さびしい夜のつめたいゆびがおなかにさわり
おどろいたおじいさんはめをさまし
すぐさま、さびしい夜にげんこつをなげましたが
さびしい夜はごうごうと音をたてて駆けぬけながら
おばあさんにおおいかぶさって
おへそをぬすみ
黒いマントのぼたんにはめて
やねのうえへにげていきました
 
さびしい夜をおいかけてやねのうえへのぼった
おじいさんは
おばあさんのおへそがあたらしい星となって
黒い夜にかたく ちいさく
光っているのをみつけました
ぼうぜんとしながら家にもどると
おばあさんのぬすまれたおへその穴が
おばあさんを かたく ちいさく ちいさく ちいさく
吸いこんでいくところでした
おじいさんはおばあさんをけんめいにひっぱり
おへその穴に吸いこまれるのをとめようとしましたが
おじいさんの腕はこんにゃくのようにしなしなとして
おばあさんがおばあさんのおへその穴に吸いこまれるのを
とめることができませんでした
 
ついにおばあさんが吸いこまれてしまったあと
そこにはかたく ちいさな穴がのこりました
穴は真っ黒で その黒さのために
夜にもはっきりみえるほどでした
いっぽうおばあさんのおへその星は
夜になると
おへその穴のうえでひかりかがやきました
 
さびしい夜がおばあさんのおへそをぬすんで
百万億年くらいがたちました
一千万億年かもしれません
あまりにも時間がたったので
おじいさんはもうおぼえていないのです
ごめんなさい
それだけの時間がたったあとのことです
おばあさんのおへその穴から
かたく ちいさなものが出てきました
 
ちいさなもの
おばあさんでしょうか?
いいえ、ちがいました
おへその星はあいかわらず夜にかがやき
おじいさんはでてきたものがおばあさんではないのに
がっかりしました
とてもとても
がっかりしました
ためいきがなくなるほど
がっかりしました
 
がっかりしても
おへその穴からおばあさんはあらわれません
おじいさんはしかたなく
でてきたものをまるめて
空中になげました
空中になげられたまるいものは
とおく
とおく
とおく
おへその星に届くかのように
とおくへ飛んでいくと
くるくると回転をはじめました
 
すると、どうでしょう
おへその星から、夜が裂けたのです
さびしい夜はぴりぴりといくつもに裂けて
ほそいリボンのようになり、
回転するまるいもののまわりを
からみあいながらくるくるとまわりはじめました。
 
みなさん
そろそろ、わかりましたか。
 
このまるいもの。
これが、この国になったのです。
そしてさびしい、裂けてしまった夜は、
あの国へ。
これがわたしたちの
さいしょの歴史の
ものがたりです。


2014.8.8

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