誰でも明日のことは考える
自分の夢さえ見ることがなくなったのだから
他人の夢を見ることはできない
夢を見ている寝姿を見ていることができるだけだ
間違った地図をたどり
間違った場所に着くことができるだけだ
謎に満ちた世界と向き合う
羽化したばかりの蝶のように。
夢を見なくなったのだから
夢の核のようなものが目覚めたときも触れられる
そう思えるようになる
陽射しは斜めに傾き
白い塀の影を深くしていく
視界は熱っぽいのに、濡れた身体は冷たい
始めから他人の夢を見ることはできなかった
他人の夢を生きることも。
誰もが自分の夢を見る
自分だけの夢を。
けれども夢を見なくなったら、
すれ違う少女のマスカラの濃さが妙に気にかかる
その影に沈んだ瞳の無邪気な悪意が見えるようになるのか
他人の夢は変えられない
たとえ、その恐ろしさに気づいたとしても
他人の夢は見ることができない
自分の夢のなかに沈み込むようには。
2014.6.2