【第3回】片耳だけのピアス | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

誰でも明日のことは考える

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【第3回】片耳だけのピアス

2014.05.26 | 城戸朱理

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雲が湧き、夏至が子午線を登ってくると
自分の影が子犬のように足元にまとわりつく

アケビの蔓が伸び、
夏の気配がヤブガラシの影にまで及ぶとき
それが初めて見るものなのか
幾度となく繰り返し見たものなのか分からなくなる

生きているかぎり、私たちの経験は、さらに積み重なり
情報量は増え続けるが。

そのかたわらで失われていくものがあるのだろう
きっと、それは失われれてから
貴重なものであったことに気づくようなものなのだろう
けれでも、失われてしまうと
もうそれが何だったのかは、誰にも分からない

彼女が言う、
片耳だけのピアスが増えていく、と。
そのとき、増えていくもののかたわらで
失われていくものがある

増えていくのは、役に立たなくなったものだが
失われていったものの名前を
私たちは、きっと知らない。

2014.5.26