誰でも明日のことは考える
雲が湧き、夏至が子午線を登ってくると
自分の影が子犬のように足元にまとわりつく
アケビの蔓が伸び、
夏の気配がヤブガラシの影にまで及ぶとき
それが初めて見るものなのか
幾度となく繰り返し見たものなのか分からなくなる
生きているかぎり、私たちの経験は、さらに積み重なり
情報量は増え続けるが。
そのかたわらで失われていくものがあるのだろう
きっと、それは失われれてから
貴重なものであったことに気づくようなものなのだろう
けれでも、失われてしまうと
もうそれが何だったのかは、誰にも分からない
彼女が言う、
片耳だけのピアスが増えていく、と。
そのとき、増えていくもののかたわらで
失われていくものがある
増えていくのは、役に立たなくなったものだが
失われていったものの名前を
私たちは、きっと知らない。
2014.5.26