2016.09.16
大量生産・大量消費の時代が終わり、消費者一人一人にとって“本当に価値あるもの”が求められている現在。ビジネスにおける顧客体験の向上こそ、企業の最重要課題になっている。そこで必要なのが「デザイン思考のモノづくり」だと語るのは、日本IBMでインタラクティブ・エクスペリエンス(IBMiX)をリードする工藤晶氏。IBMが考える「デザイン思考」とはいったい何なのか。ITジャーナリストの林信行氏を聞き手に迎え、話を聞いた。
工藤 晶(左)
日本IBMインタラクティブ・エクスペリエンス事業部長。外資系コンサルティング会社を経て現職。「IBM Studios Global Leadership Team」のメンバー。デザイナー、戦略コンサルタント、エンジニア、データサイエンティストの多彩なタレントからなる同事業を統括。
林 信行(右)
テクノロジーやデザイン、教育が人々の働き方や生活をどう変えるかを取材し、講演、執筆、コンサルティング活動を行っている。ジェームス・ダイソン財団理事、グッドデザイン賞審査員。ifs未来研究所研究員。著書は『iPhone ショック』『iPad ショック』など多数。
IBMとデザインの関係
林●工藤さんはクリエイティブな戦略立案からデザイン、モバイルなどを提案する「IBMiX」において、新しいエクスペリエンス(体験)を創出するリーダーとして活動されています。お仕事の内容を聞く前に、そもそもIBMがデザインというものに対してどのように関わってきたのかを教えてください。
工藤●IBMとデザインの関わりでいうと、中興の祖であるトーマス・J・ワトソン・ジュニア(IBM2代目社長)の話に遡らなくてはなりません。彼は1950年代にニューヨークでオリベッティ(イタリアの大型コンピュータ製造会社)のタイプライターを見て、当時のIBMのショールームがいかにもビジネスじみて格好悪いと感じたと言います。そこで、友人だったエリオット・ノイズ(建築家・デザイナー)をデザインコンサルタントとしてIBMに招聘したのが1956年。そこからIBMのデザインプロジェクトの歴史が始まります。ワトソン・ジュニアのデザインについての考え方は先進的で、「デザインは色や形だけでなく、人にサービスするもの」であるとその頃から語っていました。
林●なるほど。
工藤●その後、エリオット・ノイズがグラフィックデザイナーのポール・ランドを連れてきて、彼が現在に続くIBMのロゴをデザインしました。さらに1957年にはチャールズ&レイ・イームズがIBMの展覧会のプロデュースを行い、展示を通じてお客さんにコンピュータの世界を体験してもらうという、「エクスペリエンスをデザインする考え」を実践し始めたのです。