終わりの始まりぼくらの再生と解放の物語|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

終わりの始まりぼくらの再生と解放の物語

私は障害がある人々にアプリを処方する眼科医です。そして、アップル製品との出会いで障害の解釈が変わっていく患者たちの言葉に、学びと気づきを得て健康教育に活かす産業医でもあります。新型コロナウイルスによって社会全体が終わりの見えない暗闇の中にいた2020年、患者たちからもらった言葉の処方箋を自分の中だけで終わらせることなく、社会に還元したいという強い想いから、本連載は始まりました。

振戦症の発症により外科医としてのキャリアに悩んでいた2010年、人生の先が見えずにいた私にとってiPadの視覚障害者への活用は、もう一度眼科医として患者の役に立てるという暗闇に差した一筋の光明でした。また、2005年にスタンフォード大学の卒業式で行われたスティーブ・ジョブズのスピーチ動画に出会い、「今日を最期の日だと思い人生の時間を大切に使うこと」、「他人の声よりも自分自身の内なる声に耳を貸すこと」の大切さに深く感銘をうけて起業を決意しました。結果的に私の人生の転機となったこの動画ですが、視聴した当時はスティーブ・ジョブズがアップルの創始者であることすら知りませんでした。

起業後はアクセシビリティ機能の探求に始まり、アップル製品に宿る精神性や美へのこだわりの哲学に魅了され、全国のアップルストアでワークショップを開催し、本連載に至るまで、今では生粋のアップルファンとなっています。

“治さない医者”を名乗り、患者自身がアップル製品を活用して生き方を再生していく様子を、「患者が患者自身を治す医療」として、当事者や医療従事者へ教育することで、自身の中にあった“治せない医者”というレッテルから解放され、自分らしく人生を歩めるようになったとも感じています。

アップル製品との出会いによって、「メスを握る外科医」から「アプリを処方する医師」へと転身できました。アップルが商品ではなく、哲学や美学を販売している企業というのも大きく作用していることでしょう。

触れただけで人を魅了する自然な操作感と表示能力を持ったiPad、思考を遅延なく創造に反映させられるMacBook、端末の在り方を変え、デバイスの制約から解放したクラウドサービス。こうした魔法のようなテクノロジーは私の創作活動を最大化させ、最近では娯楽だったはずのゲームすら医学的な社会処方にまで昇華することができました。アップル製品をとおして自分の中にある“好き”に焦点を当てて活動できたのは、テクノロジーが人生を豊かにする存在だと、アップルが体現し続けているためだと感じています。

私は外科医としてのキャリアを見直したことで、人生の使い方を見直すことができ、アップル製品との出会いによって、医療では救うことのできなかった患者たちに創造的な生き方を処方することができました。そして10年の時を経て、患者からいただいた言葉の処方箋を、『Mac Fan』という聖地で社会に処方できたことに改めて感謝しています。

この4年間の言葉の処方箋が自分らしい人生の歩き方を始めるための気づきの一助となることを切に祈っています。またどこかで皆さんに会える日が来ることを願って。

 

一度限りの人生、全力で楽しもう。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。