【第6回】▼▼▼ | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

新しい器官

新しい器官

【第6回】▼▼▼

2015.03.03 | SST+U

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​昆虫が電流のやうな速度で繁殖した。
地殻の腫物をなめつくした。
 
 
 
  窓から入りくる下等なる黒い三角形   悦史
  
 
 
  ある素体鰻の群のやうに逃ぐ   悦史
 
 
 
  節足動物的民主制や南太平洋一帯   悦史
 
 
 
美麗な衣裳を裏返して、都会の夜は女のやうに眠つた。
 
 
 
  あふむけのちぶさながるる湯ざめかな   猿丸
 
 
 
  睡眠しつつ電場を満たし溺れぬ男性   悦史
 
 
 
  水母また水母がゑぐりゆく都心   智哉
 
 
 
私はいま殻を乾す。
鱗のやうな皮膚は金属のやうに冷たいのである。
 
 
 
  超伝導す四対の脚の骨格勲章   悦史
 
 
 
顔半分を塗りつぶしたこの秘密をたれもしつてはゐないのだ。
 
夜は、盗まれた表情を自由に廻転さす痣のある女を有頂天にする。 
 
 
 
  繃帯に滲むパイナップルの汁   智哉
 
 
 
  誕生時には約一億度の女性なり   悦史
 
 
 
 
 
 
 
太字…左川ちか『左川ちか全詩集 新版』(森開社)収録「昆虫」より

 

2015.3.3