【第3回】ことばのれんしゅう 読むこと書くこと(仮)1 | マイナビブックス

詩、短歌、俳句の新しいカタチを探ります。紙から飛びだした「ことばのかたち」をお楽しみください

ここと うたと ことばのれんしゅう

ここと うたと ことばのれんしゅう

【第3回】ことばのれんしゅう 読むこと書くこと(仮)1

2014.10.04 | 今橋愛

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短歌の本を 歌集という。
ぼーっとしはじめたのと同じくらいやから、
ここ(むすめ、1才6ヶ月)が おなかにいてた頃くらいから歌集を読んでいない。
ちょうどその頃、知り合いに歌集を 
お願いしてわざわざ送ってもらったのに
手にとったら 目に 字や、字の意味が 全然入ってこなかった。
この感覚はなに。といっしゅんおもったけど、すぐ
今は 時期とちがうんやわ。と思った。
そして、本格的妊婦期に入り、どんどんもりもり太っていった。
20年くらい前のような気がするけれど、
実際には27ヶ月くらい前のこと。
 
そして今。
本を読まなあかんと思った。
読むのと書くのは ちがうことやけど、たぶん おなじことなんやと思う。
マザーグースじゃないけど、
今、わたしは ここと こども番組と ごはんの用意と
いつも身体のどっかにうっすらある疲労とで できている。
今、疲労、と書いたら、
茨木のり子の「ひとの奥さんの肩の詩」(※)を思いだした。
 
ここがねてる ひるの時間は、
家のことをしているうち いつのまにかおわってしまう。
本屋に足を運ばなくなった。
自分のためだけに時間をつかいたいわけでは もう ない。
けれど、時間は。
まず 「ここといること」に ざばざばと。
何杯もバケツでくんでしまえば あとには のこらない。
けど 本を読もう。本を読もう。とにかく本を読もう。と思っているところに 
ありがたい。送ってくださるかたがあった。
ここで一行目にもどります。
短歌の本を 歌集という。
そしてぱっと思いだす。
わたしは、短歌をつくっていたようだ。ようです。
わたしは歌集を読むことにしました。(つづく)
 
 
 
 
※ひとの奥さんの肩の詩
 
 小さな娘が思ったこと   茨木のり子
 
小さな娘が思ったこと
ひとの奥さんの肩はなぜあんなに匂うのだろう
木犀みたいに
くちなしみたいに
ひとの奥さんの肩にかかる
あの淡い靄(もや)のようなものは
なんだろう?
小さい娘は自分もそれを欲しいと思った
どんなきれいな娘にもない
とても素敵な或るなにか……
 
小さな娘がおとなになって
妻になって母になって
ある日不意に気づいてしまう
ひとの奥さんの肩にふりつもる
あのやさしいものは
日々
ひとを愛してゆくための
  ただの疲労であったと    
              
             出典『見えない配達夫』


2014.10.4