2016.02.05
Bay Area Startup News Web Designing 2016年2月号
慣れ親しんだ利用体験を別のビジネスモデルに活かすSNSメッセージ感覚で送金できる「Venmo」
海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。
最近、日本でも金融(Finance)×IT技術(Technology)でイノベーションを生み出す新しい金融サービスの手法「FinTech(フィンテック)」の話題が増えています。スマホやクラウドの普及によって、アプリやサイトを通じお金に関するやりとりが可能になっており、その勢いは加速しています。同分野のスタートアップへの投資額はここ数年で飛躍的に伸びており、スマホでのクレジットカード決済を実現する「Square」も上場しました。「LINE Pay」、Facebookメッセンジャーの送金機能「Messenger Payment」などのFinTech系サービスは続々と登場しています。
そんななか、アメリカの若者の間でもっとも人気があるのが「Venmo(ヴェンモ)」です。これはSNS感覚で友達に送金ができるサービスで、学生を中心に普及が進んでいます。アメリカでは高額の現金を持ち歩くことが一般的ではなく、数十ドル以上の会計はクレジットカードで行うことが多いのですが、学生はカードを取得しにくかったり、割り勘の際に現金を持ち合わせていなかったりなどの不都合もあります。そんな時には友達に立て替えてもらって、後で払うのですが、ついつい忘れてしまったり、その友達に再び会う機会がなかなかなかったりすることもあります。
そこでVenmoです。Facebookでアカウント作成、ログインし、自分の銀行口座と連動させることで、Facebook上の友達に送金やお金の請求ができます。レストランやバーで立て替えてもらったときでもその場で送金ができ、翌営業日には相手の口座に振り込まれます。手数料は無料で、アプリ自体も無料なので、これまでの銀行振込などと比べても格段に便利でお得です。Facebookメッセンジャーの送金機能も無料ですが、こちらはVisaやMasterCardのデビットカードが必要なので、Venmoのほうがより手軽です。
特筆すべき点として、アプリを利用した際のエクスペリエンスが挙げられます。ログインすると、最近の友達の利用履歴や友達の友達、さらに友達ではないユーザーの履歴が一覧できます。誰が誰に何の項目で支払った、まだ支払っていないなどの状況が一目瞭然で、見ているだけでも楽しいのです。送金・請求の操作はメッセージを送るのと大差がありません。これは、若者ユーザーが日常で慣れ親しんだ利用体験をそのままに、ビジネスモデルだけを変更した好例でしょう。
これからの新規サービスは、“何”を提供するかよりも“どのように”提供するかがヒットの鍵となるでしょう。アプリやサービスをデザインする際には、まずはすでにユーザーに受け入れられているUXをとことん研究することから始めるのが正しい方法かもしれません。


- Text:ブランドン・片山・ヒル
- 米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。サンフランシスコ、シリコンバレーを中心に、スタートアップの魅力をデザイン、ビジネス、テクノロジー面から解説します。 http://btrax.com/jp/