ブームは「なじみの行動」が火付け役に|WD ONLINE

WD Online

行動デザイン塾 Web Designing 2016年1月号

ブームは「なじみの行動」が火付け役に

まったく新しい行動は「リスクがあるから採用しない」が、どこかで見たことがある行動は「親近感が湧くので」乗り換えやすい。今回は、ターゲットを“近くの他の行動”に移行させる“使える手口”(=レーンチェンジ)がテーマだ。

なぜ日本でハロウィンはこんなに浸透したのか?

当研究所が2015年7月に行った調査では、ハロウィンに参加すると答えた人は全体で14.8%だったが、20代女性では36%と高いスコアだった(01)。報道などの盛り上げ効果で、実際の参加率はさらに多かったのではないだろうか。じつは、ハロウィンに限らずクリスマスやバレンタインといった行事はすべて20代女性の参加率がもっとも高い。では、彼女たちのハロウィンへのモチベーションはどこから来ているのだろうか。もともと小さい子どもの行事だったものが大人(20代女性)のイベントに変化するためには、どういうきっかけが必要だったのだろうか。

01 ハロウィンへの参加率
この調査では、さまざまな行事に対する参加経験を尋ねている。すると、ハロウィンに限らず、20代女性の参加率が他の世代を大きく上回っていた。つまり、日本においては20代女性が新しい行動を率先して採用し、それに他の世代・男性がついてくる構造となっている(n=調査人数)  出典:博報堂行動研究所自主調査(東京地区の男女20~59歳の男女500人対象、2015年7月調査)

 

行動デザイン的に考えると、「新しい行動を誘発させたい」なら、その「代わりとなる行動を探して、その行動からの移行を促す」という設計が必要になる。新しい行動は、何らかの既存の行動を代替する形で普及・定着していくものだからだ。つまり、20代女性のハロウィン参加率を拡大するためには、もともと20代女性が同じ時期にやっていた「既存の行動」に注目し、それからの“乗り換え”を誘導する仕掛けを考えるということになる。

筆者が注目するのは「バレンタインからの乗り換え」説。バレンタインの社交イベントとしての重要性はここ数年で大きく低下している(02)。しかし、冬場の人恋しくなる時期に何か人とつながれるイベントは欲しい、という20代女性がバレンタインからハロウィンに乗り換えはじめたのではないか? という仮説だ。そのときにまったく新しい行事を仕掛けても、その普及・定着は難しい。むしろ、なじみの出てきたハロウィンを若者イベントに仕立てるほうが早かった、ということではないだろうか。

02 バレンタインチョコの行動率
データは20~30代女性を対象にした調査。2009年から2013年で相手にチョコレートを贈る率が減少している一方で(「恋人や夫に本命チョコ」が約6%、「会社の上司への義理チョコ」が約18%、「会社の部下への義理チョコ」が約14%それぞれ減少)、自分へのご褒美チョコは約12%も増加。バレンタインが社交イベントからパーソナルイベントに変質している様子がうかがわれる 出典:マクロミル「働く男女のバレンタイン実態調査2013」(2013年01月31日のリリースより)をもとに編集部が作成 

 

隣のレーンに“レーンチェンジ”させてみよう

このように「見たことのあるモチーフ」を活用して、行動率が低下している行動を別の行動に転換して活性化する手口を “レーンチェンジ”と呼ぶ(03)。バレンタインとハロウィンは時期も多少違うし行事の性格も違うが、「冬場の社交イベント行動」と大きく捉えれば、バレンタインからハロウィンへの“レーンチェンジ”が進行しているという見方ができる。「豆撒きから恵方巻きへのレーンチェンジ」もわかりやすい。節分に豆を撒く家庭より恵方巻きを食べる家庭が増えているが、その“乗り換え”が意外にスムーズだった理由は「どちらも食品である」「“撒き”と“巻き”が語呂合わせ」「太巻きは見慣れた食材」という点だ。行動の見た目は大きく違うが、やる側にとっては豆のレーンからそれほど遠くに移行している気がしないという「なじみ感」が重要だったのだ。

03 「レーンチェンジ」の概念図
いま停滞中の商品を、“渋滞しているレーンにはまっている車”に見立ててみよう。同じレーンに留まっていても先がなさそうなとき、新しい行動だと遠くのレーンに一気に移動するような難しさがある一方、近く(隣)のレーン(見慣れたなじみのある行動)ならそのレーンに移動しやすい

 

ある行動が停滞しているときに、それをそのままの形で再活性化することは非常に難しい。何か違う行動に転換させる必要があるが、「どこかで見たような」なじみ感の設計が重要だ。

ウイスキー業界の「ハイボール」提案の成功もレーンチェンジで読み解くことができる(04)。

04 ハイボール
写真は筆者撮影

 

ウイスキーは若い世代でダウントレンドだったが、ハイボールという飲み方提案がヒットして市場は大きく回復。爽快なおいしさと手ごろな価格がその要因だが、若者にとって新しい行動にもかかわらず、なじみのある行動(ジョッキで飲むなど)だったことも効いているのだろう。つまり、ウイスキーの近くの、よりなじみのある“生ビール・酎ハイ的なレーン”にウイスキーをレーンチェンジさせたことがハイボール行動の普及・定着の一因だと考えられる。

 

 

Text:國田圭作
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。 http://activation-design.jp/

掲載号

Web Designing 2016年1月号

Web Designing 2016年1月号

2015年12月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

グロースハック/「キーワードツール」活用講座

サンプルデータはこちらから

■ 特集:今日から始める“成長戦略”グロースハック
 世界の急成長サービスが特集 実践するデジタル時代のマーケティング手法

近年、「グロースハック」という言葉を耳にすることが増えてきました。しかし、その本当の中身を正しく理解している人はあまりいないようです。チップス? テクニック? スタートアップ企業向けの秘密のノウハウ? いえ、そうではないんです。グロースハックとは、これからのデジタル時代に必須の「マーケティングの考え方」のことなのです。今回はさまざざな角度からグロースハックの考え方を紹介していきます。

■ 集中企画:ネットビジネスを有利にするための「キーワードツール」活用講座
 SEOやリスティング広告対策に! 事前にユーザーの検索行動がわかる

「キーワードツール」は、インターネットにおける検索行動量を手早く調査できるツールです。つまり、あるキーワードが「どれくらいのユーザーにリーチするのか」を事前に推定できます。ここでは、ツールの概要とともに、その活用術について解説します。

■ WD SELECTION
 WDが選ぶ注目のデジタルコンテンツ
GREEN NAME/LIFE IS A GIFT/ORCHESTRE DE PARIS/KAI FACT magazine/Deja vu/くばら あごだしチャレンジ/キリンメッツ スター・ウォーズ/google STARWARS/LACOSTE-F/W OUTWEAR/Christmas Express/めぐみ野 スペシャルコンテンツ「トマトになった男の子」/Japan Sumo Cup/沖縄戦 全記録|NHKオンライン/Typetone

■ ビジネス・EC
 □ ECサイト業界研究
 カンバセーションコマース:Facebook を利用した会話によるEC

 □ 月刊店舗設計
 ULYSSES:適切な場所での情報発信がビジネスの可能性を広げる

 □ モバイルビジネス最前線
 MYALO:禅×脳科学によるストレスコントロール「マインドフルネス」をアプリで学ぶ

 □ 知的財産権にまつわるエトセトラ
 作者以外にも著作権は認められる

 □ Bay Area Startup News
 画像やテキストを判別して自動でサイトをつくる「The Grid」

■ マーケティング・プロモーション
 □ サイト改善基礎講座
 ユーザーインタビューで有効なコンテンツを見定める

 □ ハギハラ総研
 日本人の半分はまだECを利用していない

 □ デジタルプロモーションの舞台裏
 ビジネス展開を見越し運用体制の強化を図った“マーケティングツール”サイト

 □ 行動デザイン塾
 ブームは「なじみの行動」が火付け役に

 □ 課題解決のためのUI実装講座
 カテゴリーが多いスマホサイトで役立つ「スワイプ対応タブメニュー」

 □ 解析ツールの読み方・活かし方
 買収したサイトを最小限のコストでリノベーションする

■ クリエイティブ・コラム
 □ ナビゲーターが選ぶ注目のデジタルコンテンツ
 [バズ施策]誰のためにつくるのか?: John Lewis Christmas Advert 2015 眞鍋海里
 [デジタルプロモーション]「ノーデジタル」の拡散:The Gun Shop 築地 Roy 良
 [Webサービス]上質な表現の「場」:Medium 仲暁子
 [IoT]なんとなくの心地よさ:kizuki. 神谷憲司

 □ モノを生むカイシャ
 1→10drive:「体験」をデザインするプロ集団

 □ 清水幹太の「Question the World」
 Julia Kaganskiy:美人マッドサイエンティストによる、やばい実験計画

 □ ツクルヒト
 榊原澄人:「フレーム」を超えて動き出す世界

 □ 最果タヒの「詩句ハック」
 第19回 あみだく詩゛

 □ デザインにできることMonologue
 Vol.143 パブリッシュ

 □ エキソニモのドーン・オブ・ザ・ボット
 コンピュータに「嗅覚」を与えるチップがインターネットのニオイ体験を可能に!?

■ インフォメーション
 □ Topics
 突破クリエイティブアワード2015/ココノヱPresents らくがきミュージアム/第19回 文化庁メディア芸術祭/BB-8 by Sphero

 □ Movement&News
 水族館+動物園+美術館?!「NIFREL(ニフレル)」オープン!/「スター・ウォーズ」のキャラクターや乗り物を使った作品を発表するフランス人写真家の日本初個展/数万枚もの写真をコラージュして1枚の地図をつくりあげる西野壮平 ほか
 [アドテック東京 2015]属性から個人へ。エンゲージメントを高めるトレンド/[Adobe Falsh Professional]時代とユーザーの潮流にあわせ「Animate CC」として新生/Twitter Japan担当者が語るTwitter広告成功のために必要なこと ほか