MYALO:禅×脳科学によるストレスコントロールの最新手法「マインドフルネス」を学ぶスマホアプリ|WD ONLINE

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MYALO:禅×脳科学によるストレスコントロールの最新手法「マインドフルネス」を学ぶスマホアプリ スマートフォン時代を彩る新しいエコシステム

企業での「ストレスチェック」が12月から義務化された。会社員の6人に1人は社内うつと言われており、ストレスは現代の社会問題となっている。そんな中、公衆衛生の専門家集団が注目したのは「マインドフルネス」という、禅の修行を源流とする瞑想メソドロジーだ。スマホアプリを使って、そのメソッドの定着を図っている。

注目の「新しい瞑想」をアプリで学ぶ

「マインドフルネス」は、ほとんどの人にとっては耳馴染みのない言葉だろう。しかし、米国のビジネスエリートたちが今、注目しているキーワードの一つなのだそうだ。

「マインドフルネスは、非宗教的な瞑想の習慣を通じて得られる気づきや、注意を払うことの感覚を指します。ビジネススクールの教授らが、2010年代になってこぞって本のタイトルに使っていました」と、今回紹介する「MYALO(ミャロ)」を手がけた米倉章夫氏は言う。

瞑想と言うと、日本人は禅寺での座禅修行などを思い浮かべるが、マインドフルネスはフィットネストレーニングのようなスタイルの瞑想だ。脳科学などの研究から知的生産によい効果をもたらすことが確認され、ウォール街やシリコンバレーの企業が導入するようになった。中でもGoogleは、マインドフルネスの社内インストラクター養成プログラムまで作るという熱の入れようだ。こうしたことも話題になって人気に火がついた。

この新スタイルの瞑想を気軽に実践できるのがMYALOだ。日本初のマインドフルネスアプリだろう。メインコンテンツは、瞑想のための音声ガイダンスで、ユーザーのレベルによって異なるのだが、所要時間は初級者向けで1回7、8分程度。スマホ+ヘッドフォンで使えば、職場の休憩時間などでも気軽に実践できる。プログラムは全部で56セッションあり、一部が課金コンテンツとなっている。

瞑想の前後で心拍の測定やミニゲームが提供され、身体変化を数値で確認できるのもおもしろい。「瞑想によって、ほんの短時間で、こんなふうに自分の状態を変えられるのか!」と実感できるのは興味深い。

MYALO
2015年11月にリリースされた、マインドフルネストレーニングアプリ。日本人に親しみのある禅の手法を最新の脳科学の知見によって改良し、脳科学のプロと禅のプロによって、まったく新しいマインドフルネスのトレーニングプログラムとして作られたもの。 毎日、段階的にマインドフルネスを学び、瞑想を実践できるスマホアプリだ。現在はiOSのみの対応。今後は、英語版やAndroid版なども予定しているという

働き盛り世代の公衆衛生とストレス

MYALOをリリースした(株)Campus for Hは、実はWebやスマホアプリの制作会社ではない。公衆衛生の推進を目的としたベンチャー企業なのだ。

「私はP&G Japanのマーケティング部門で働いていましたが、先輩に誘われて、公衆衛生推進のベンチャー企業である(株)キャンサースキャンの立ち上げに参画しました。地方自治体とタッグを組み、がん検診の受診率をマーケティング的な側面から向上させるといった業務が主な事業です。Campus for Hは、(がん検診の対象よりも)社会人世代の健康づくり・生産性向上を目的に立ち上げられた会社です」

マインドフルネスへの関心は、米倉氏が転職後に学んだ米国のビジネススクール時代の体験がもとになっているという。

「米国のテレビは、驚くほど抗うつ薬や精神安定剤のコマーシャルが多いんです。日本のスマホゲームのCMに匹敵するくらい。薬の処方量も、日本とは比較にならないほど多いんです」

01 MYALOを起動すると、プログラムの番号が表示される。マイページでは、実施したセッションの回数、トータルの瞑想時間、自分のステージなどのほか、階級と称号が確認できる
02 瞑想のガイド画面。音声による呼吸の仕方などの指示がある。タイマーがカウントダウンする

いわばストレス先進国とも言える米国で、新しいスタイルの瞑想——マインドフルネスが脚光を浴びていることに興味を持った。薬や病院に頼らずストレスと向き合えるようになれば、現役世代のさまざまな病気を防ぐ鍵になり得るのではないかと考えたのだ。

「2013年に帰国しましたが、その頃、Googleがマインドフルネスに基づいて開発した社内研修プログラム『Search Inside Yourself(SIY)』が話題になっていました。ビジネスリーダーを育成する企業研修として確立されたのです。私たちが具体的な検討に入ったのは2014年の夏で、まずは科学的な裏付けの確認からはじめました。『どんなメカニズムであると理解されているのか』『どのような分野で応用されているのか』『具体的に、どのような効果を上げているのか』といったことをレビューしました」

03 瞑想前後の心拍測定には、旭化成(株)が開発した脈波検出技術が使われている。スマホのカメラで顔を映し出し、肉眼ではわからない顔色の変化から、脈拍と呼吸数を推定する
04 ステージ画面。回数を重ねるごとにステージレベルが上昇する。各ステージに複数のセッションがある。全部で12ステージ、総計56セッションある
05 瞑想前後のミニゲーム。瞑想の効果を体感させてくれる仕掛けが施されている。短時間で自分の変化を可視化できるのは楽しい

人の縁がプロジェクトを作る

調べてみると、瞑想が脳の特定部位を活性化させているという科学的なデータ、その働きが医学やスポーツのストレスマネジメントなどですでに応用されているといった事例、そしてストレスや痛みの軽減、集中力を高める効果が出ていることがわかった。

「マインドフルネスを高めるには、普段は意識しないような弱い刺激や呼吸動作に注意を向けるトレーニングをします。筋トレと同じで、続けていると段々と長い時間集中できるようになります。ストレスというのは常に強い刺激から影響を受けている状態なので、集中するものを意識的にコントロールできるようになると、ストレスとも上手に付き合えるようになります」

そこで、これをサービス化していこうということで、手軽に日常生活の中でトレーニングできるスマホアプリを前提としたMYALOのプロジェクトが本格的に動き出した。

06 ステージ7以降にトライするためには、 1カ月600円のプレミアムアカウントを購入する必要がある。プレミアムアカウントでは、さまざまなプログラムにアクセスできるようになる
07 セッションを積み重ねていくと、階級が上がり、難易度も上がっていく。自分の階級は、 マイページから確認できる

コンテンツ制作にあたって米倉氏がビジネススクール時代の同級生に相談したところ、京都・春光院副住職の川上全龍氏を紹介された。川上氏は米国の大学を卒業し、京都で英語による座禅体験を提供する禅僧で、実はマインドフルネスについてもたくさんの知見を有している人物だった。さらに、川上氏からの紹介で、京都を拠点とするクリエイティブエージェンシーのワン・トゥ・テンホールディングスの澤邊芳明社長とも繋がった。

マインドフルネスを縦糸に、東京、米国、京都の人脈を横糸に、2015年1月には具体的なアプリ開発がスタートした。少し遅延があったものの、11月、晴れてリリースとなった。

08 「About」では、マインドフルネスについての解説コラムを読むことができる

人の生活習慣を変えるツール

「準備していた1年の間に、『マインドフルネス』という言葉が少しずつ市民権を得てきたように思います。米国では、ビジネスリーダーとして身に付けておくべき『スキル』とも言われることもあり、1,000~1,500億円の市場になると推測されています。日本でも企業のストレスチェック義務化にともなって、今後は『その問題をどう解消すべきか』といったことが顕在化してくるでしょう」

Campus for Hが目指しているのは、前述のように、薬や病院に頼らないで健康な生活を実現するベース作りだ。そして、「ストレスに対処できる」というベースのないところに、「健康になろう」「痩せよう」という施策を導入しても効果的な対策にならない。一方、生活習慣の改善には継続した取り組みが必要となる。その際、いつでも手にしているスマホは、生活習慣改善のツールとしてうってつけなのだ。

「企業を対象にストレスマネジメントの研修も提供していて、IT系などの急拡大した企業から多くのお問い合わせをいただいています。そうした研修の参加者が、マインドフルネスを習慣化するためのツールとしてMYALOを利用してもらえればと思っています」

09 企業でのストレスマネジメント研修の様子。話しているのは、京都・春光院副住職の川上全龍氏。米国アリゾナ州立大学宗教学科卒業で、マインドフルネスについても造詣が深い
10 Campus for Hの共同創業者であり、医学博士でもある石川善樹氏。現在、Search Inside Yourself公認インストラクタープログラムに参加して研修を受けている
11 企業セッションでは、東大の公衆衛生出身の研究者チームやSearch Inside Yourselfインストラクターらがトレーナーを務める。写真は「歩行瞑想」を実践している様子

今後は、メタボ予防などにもMYALOの知見を活かしていけそうだという。

「現在、国は総額3,000億円規模のメタボ対策を進めていますが、必ずしも十分な成果が上がっているとはいえません。したがって、その分野で、生活習慣を変える新しい取り組みを私たちが作れるのではないかと考えています。成功事例を作れれば、急速に肥満化が進んでいるアジア各国にも拡大していけます」

スマホは我々の生活に変革をもたらした。そして、コンテンツの力によって人の感じ方や生活習慣、健康そのものまで変える可能性が示されているのだ。どこまで行くのだろうか。

(株)Campus for Hの共同創業者/代表取締役の米倉章夫氏。外資企業のマーケティング担当を経て(株)キャンサースキャンの立ち上げに参画。Campus for Hを創業した
Text:中谷健一
トリムタブジャパン(有)代表取締役。2000年からモバイルの通販・マーケティングに携わる。現在は新規事業コンサルティング業。本連載ではモバイルデバイスに関するビジネスの最新事例と、そのチームの素顔に迫る。 http://www.trimtab.jp/ Twitter: @kenichi_n

掲載号

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2015年12月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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 MYALO:禅×脳科学によるストレスコントロール「マインドフルネス」をアプリで学ぶ

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